サラブレッドとは?
競馬では多くの競走馬が日々レースに出走していますが、どんな馬でも良いわけではありません。競走馬には多くの品種が存在し、現在、世界中の競馬場で主流となっている品種が「サラブレッド」です。
では、「サラブレッド」とはどのような馬を指すのでしょうか?
競馬発祥の地であるイギリスでは、18世紀初頭から競走馬として改良され、育成されてきた品種がサラブレッドです。イギリスの在来種の牝馬にアラブ種を交配したことがその起源とされています。
英語では「Thoroughbred」と表記され、JRA公式サイトによると、「純血」という意味を持ち、「完全に育て上げられた」ということを表しています。また、「サラブレッド」としての大まかな定義は、連続8代にわたりサラブレッド同士が交配された馬に適用されます。
サラブレッドの特徴として、体高は約160cm、体重は400kg~500kgほどで、頭は小さく、四肢がスラリとした美しい体形をしています。毛色は主に鹿毛、栗毛、黒鹿毛、芦毛などが見られます。そして、速く走るために改良された品種であるため、時速60~70kmで数分間走ることができ、2000mを約2分で走り抜ける能力を持っています。ただし、持久力はそれほど高くなく、気性が繊細で体質があまり頑丈でないことも特徴です。
サラブレッドにはどのような競走馬がいるの?
現在、日本の競馬における平地競走や障害競走はすべてサラブレッドによって行われています。ビギナーの方でも、おそらく何度も耳にしたことがある馬や、人気ゲーム『ウマ娘』に登場するキャラクターのモデルとなった馬たちも、すべてサラブレッドです。
近年の代表的なサラブレッド競走馬には、競走馬・種牡馬として日本と世界の競馬界に多大な影響を与えたディープインパクト、芝GIで最多9勝を達成したアーモンドアイ、2023年6月時点で世界最高レーティングを獲得した2022年のJRA年度代表馬イクイノックス、その父で馬主が北島三郎さんとしても話題となったキタサンブラック、そして希少な白毛で有名なソダシなどが挙げられます。
過去の名馬を振り返ると、日本競馬で初めてクラシック三冠を達成したセントライト、五冠馬シンザン、七冠馬シンボリルドルフ、社会的な競馬ブームを巻き起こしたハイセイコーやオグリキャップ、初の牝馬三冠を達成したメジロラモーヌなどが思い起こされます。
また、スピード自慢のサクラバクシンオーやロードカナロア、長距離戦線で圧倒的なスタミナを誇ったメジロマックイーン、ライスシャワー、日本最多のGI級11勝を誇るダート王者コパノリッキー、障害競走で活躍したオジュウチョウサンなど、各分野で特化した能力を発揮したスーパーホースたちも数多く誕生しています。
さらに、海外でGIレースを制した先駆者として、シーキングザパール、タイキシャトル、エルコンドルパサー、そして最近ではパンサラッサやウシュバテソーロなどが国際ビッグレースを制し、日本競馬の名声を高めました。
これらの名前を挙げればきりがありませんが、すべて日本で活躍したサラブレッドたちです。
サラブレッドの3大始祖とは?
サラブレッドは日本だけでも毎年7000頭以上が生産されており、上記に挙げたように、芝の長距離競走が得意な馬もいれば、ダートの短距離競走が得意な馬もいます。また、見た目に関しても、漆黒の青鹿毛のイクイノックスから、純白の白毛を持つソダシまで、その個性は非常に多様です。
しかし、驚くべきことに、現在のサラブレッドの父方の祖先をさかのぼっていくと、必ず3頭の馬に行き着くという事実をご存じでしょうか?
さらに、インブリードにおいて特に効果があるとされる配合が、父方と母方の4代前と3代前に同じ祖先を持つ4×3(または3×4)の配合です。この配合は「奇跡の血量」とも呼ばれており、3代前の祖先からの血量(12.5%)と4代前の祖先からの血量(6.25%)を合わせた18.75%が、インブリードの効果を最も高めるとされる理論です。
そして、その3頭の名前はダーレーアラビアン、ゴドルフィンアラビアン、バイアリータークです。
これらは『サラブレッドの3大始祖』とも呼ばれ、現在世界中にいるサラブレッドの血統はすべて、この3頭から始まったと言われています。それでは、この3大始祖である各馬とその系統について、JRA公式サイトを参考に簡単にご紹介します。
ダーレーアラビアン系
ダーレーアラビアンは推定1700年生まれで、イギリス人のトマス・ダーレーがアラブの族長から購入した馬です。このダーレーアラビアンから5代目にあたる1764年生まれのエクリプスが、26戦全勝という素晴らしい成績を収め、その後、種牡馬としても多くの名馬を輩出しました。この功績によって、ダーレーアラビアン系は大きく発展しました。
エクリプスの子孫には、セントサイモン、ファラリス、ネアルコなどが続き、さらにその血統は今日のノーザンダンサー系、ヘイルトゥリーズン系、ミスタープロスペクター系、ナスルーラ系、リボー系などに展開し、世界中で広がりを見せました。
現在、ディープインパクト、アーモンドアイ、2023年の日本ダービー馬タスティエーラなどもダーレーアラビアン系に属し、その系統の占有率は90%を超えるとも言われています。日本においても、現役競走馬のほとんどがダーレーアラビアン系であり、その中でもサンデーサイレンス系やキングマンボ系が特に活躍を見せています。
ゴドルフィンアラビアン系
ゴドルフィンアラビアンは推定1724年生まれで、モロッコの皇帝からフランスのルイ14世に謙譲されたと伝えられていますが、後にパリ市中で散水車をひく荷役をしていたという逸話も残っています。このような物語の真偽は不明ですが、ゴドルフィンアラビアンには数多くの伝説が語られています。
ゴドルフィンアラビアンから3代目にあたるマッチェム(1748年生まれ)によって、この系統は大きく発展しました。しかし、ダーレーアラビアン系のエクリプスやバイアリーターク系のヘロドが登場することで、その勢力は次第に衰退していきました。現在ではゴドルフィンアラビアン系はマイナー血統に位置づけられていますが、その子孫には特筆すべき存在がいます。
その一つが、1917年にアメリカで誕生したマンノウォーです。生涯成績は21戦20勝で、アメリカ競馬史上最高とも評される名馬です。種牡馬としても成功を収め、特に日本では、マンノウォーを父に持つ持ち込み馬・月友が、3頭のダービー馬を含む5頭のクラシック馬を輩出しました。しかし、月友の父系は途絶えてしまい、その後、海外から輸入されたヴェンチアやシルバーシャークといった種牡馬が一定の成功を収めましたが、その後継種牡馬は育成されず、日本での勢力拡大には至りませんでした。
バイアリーターク系
バイアリータークは推定1680年生まれで、イギリスのロバート・バイアリー大尉の軍馬として活躍したと伝えられています。その後、種牡馬としての成功は限られていたものの、5代目にあたる1758年生まれのヘロドが登場し、血統の勢力図を大きく変えました。ヘロドはその仔ハイフライヤーと共に、ダーレーアラビアン系のエクリプスをしのぐほどの種牡馬として大成功を収め、後世の競走馬に強い影響を与えました。しかし、19世紀後半にはヘロド系も急速に衰退し、現在では欧米を中心にその血統が消滅の危機に瀕しています。
一方で、日本ではバイアリーターク系の血統を受け継ぐ種牡馬が一定の成功を収めました。例えば、輸入種牡馬パーソロンからはシンボリルドルフやトウカイテイオーといったチャンピオンホースが登場し、メジロアサマからはメジロティターンを経て、メジロマックイーンが誕生しました。さらに、ビゼンニシキからはその仔ダイタクヘリオス、孫ダイタクヤマトと3代続けて活躍馬が出るなど、一時的にバイアリーターク系は日本競馬で栄光を誇りました。しかし、その後は欧米同様、後継種牡馬が育成されず、現在では日本でもその血統の存続が心配されています。
サラブレッドが実際の競馬にデビューするには?
最後に、サラブレッドが誕生し、競走馬としてデビューし、引退するまでの過程を見ていきましょう。
一般的に、仔馬の誕生は春の季節で、生まれてから1年ほどは生産牧場で過ごします。この時期に放牧地で動き回ることで、自然と基礎体力をつけていきます。また、基礎体力を更に強化するために、「昼夜放牧」と呼ばれる方法が採用されている牧場も増えており、昼だけでなく夜も放牧に出し、運動量を増やしています。
1歳の夏から秋ごろ、仔馬は育成牧場に移され、鞍を置く、ハミを掛けるなど、騎乗準備が始まります。徐々に人を背に乗せることを覚え、慣れていくと、次は常歩、速歩、駆歩などの騎乗運動へと進み、競走馬としてのトレーニングが積まれていきます。
サラブレッドが競走馬としてデビューするのは、2歳になってからです。JRAでは6月に2歳新馬戦が始まるため、成長の早い馬は2歳の2月から3月ごろに、美浦または栗東トレーニングセンターに入厩します。調教師の管理のもと、坂路やウッドチップコースで本格的なトレーニングを行い、デビューに向けて準備を整えます。
そして迎えるデビュー戦。競走馬はそれぞれの適性に合わせて、芝、ダート、短距離、中距離、長距離など、異なるレースに出走します。また、成長具合によっては、2歳の6月に早々にデビューする馬もいれば、3歳を迎えてからデビューする馬もあります。デビュー後は、ライバルと競い合いながら、最高峰のレースであるGI勝利を目指していきます。
現役として走る期間は競走馬によって異なりますが、長くても8~9歳ぐらいまでです。引退後、優秀な成績を収めた馬や血統の優れた牡馬は種牡馬として活躍し、多くの牝馬は繁殖馬として次世代にその血を引き継いでいきます。また、種牡馬や繁殖馬として活躍できなかった馬たちは、乗馬や競馬場の誘導馬として余生を過ごします。
この章のまとめ
サラブレッドの歴史を紐解く中で、特に注目されるのが「3大始祖」の存在です。これらは、現代のサラブレッドが持つ血統の基盤を築いた3頭の馬であり、その血統が今日の競馬を支えていることは非常に興味深い点です。まるで“人類の祖先はアダムとイブ”という神話のように、3頭の馬が現代のサラブレッドにどれだけ大きな影響を与えているのかを知ることは、競馬の魅力をさらに深く感じる手助けになります。
特にダーレーアラビアン系の広がりが圧倒的で、現在の競走馬のほとんどがこの血統に由来しています。その一方で、ゴドルフィンアラビアン系やバイアリーターク系が消滅の危機に直面しており、これらを存続させるための努力が世界中で行われています。競馬の世界はまさに歴史の変換点を迎えているとも言えるでしょう。
もしサラブレッドの血統や歴史について更に深く知りたいのであれば、JRA-VANは非常に役立つリソースです。JRA-VAN NEXT(PCソフト)やJRA-VAN DataLab.(データラボ)では、血統の特徴や代表的な種牡馬について調べることができ、現役競走馬や過去の名馬のデータも簡単にアクセスできます。また、血統図から「3大始祖」まで遡ることができるため、サラブレッドの系統を深く理解するには最適です。
競馬を楽しむだけでなく、その歴史や血統に触れることで、競馬の奥深さをより味わうことができるでしょう。